ビートレンド株式会社
取締役 永山 隆昭
日本ではあまり聞き馴染みがないのですが、最近になってITトレンドの発信地であるアメリカで、よく取り上げられるようになってきた言葉に、QuotetoCash(またはQ2C)があります。企業向けのITでは最もホットな分野の一つであるらしいこのQ2C、いったいどんなものなのでしょうか?
Quoteは見積もりを、Cashは代金の回収を意味しています。Q2Cというのは、要はこの見積もり段階から契約→請求→回収といった一連のプロセスを、一つの流れとして管理していこうということのようです。
ビジネスプロセスのこの部分は、従来はちょうどSFAと呼ばれる営業系のシステムとERPと呼ばれる会計系のシステムの間に位置しており、そのどちらかの付加機能としてサポートされてきました。それが独立したシステムとしてスポットライトが当たり始めたのは、どうやらいわゆる「時代の要請」というのが主な要因のようです。
まず見積もりの段階では、顧客のニーズの多様化に応えるために選択肢が増加し、最終的な商品構成が複雑化している分野が増えてきています。すぐに思いつくのはパソコンのBTOですが、身近なところでは自動車のオプション構成などもどんどん難しくなっているような気がします。
つい最近のことですが、車を買い換えようと思いディーラーに行ってみると、あるオプションを付けるためには別のオプションが必須だとか、これを付けるとこちらのオプションは付かないだとかいうルールがとても多く、これは営業さんは大変だなと感じたのを思い出しました。
どうやら安全系の機能の充実に伴って、カメラやセンサーがいろんなところ付けられるようになっているのが大きいようですが、ルールベースの構成システムが無いと見積もりを正確に出すのも難しそうです。
またオンラインでこういった複雑な構成を持った商品やサービスを販売するために、そもそも人間の介入を期待できないケースも増えてきています。
オンライン販売の場合は、顧客の購買履歴に応じた値引きなども自動的に考慮する必要があるため、「正確な見積もり」に至るハードルはより一層高くなります。Q2Cの中でも、この見積もり段階はCPQ(ConfigurePriceQuote)と呼ばれる独立したシステムとして扱われることも多いようで、ベンダー間の競争が一番激しい分野でもあります。
次の契約の段階では法制度の順守やリスク管理といったことに対する企業意識の向上が、請求から回収の段階では代金回収サイクルの短期化や回収状況の顧客情報への適切なフィードバックの必要性が、それぞれ「時代の要請」として挙げられるのではないでしょうか。
回収状況を見積もり段階での値引きや、契約段階でのリスク管理に活かしていこうとすると、やはりこの一連のプロセスは密接に連携した一つのシステムとしてサポートされるのが良さそうな気がしてきます。
この分野の有力企業であるApptusとSteelBrickが、つい最近相次いで増資を発表しました。Apptusの増資額は$108M(約130億円)、SteelBrickの方は$48M(約58億円)で、かなりのビッグビジネスになりつつあるのがお分かりいただけると思います。
面白いのは、両社ともにSFAの最大手であるSalesforce.comから投資を受けていること、そしてシステムが同社のSalesforce1と呼ばれるクラウド環境の上に実現されていることです。Salesforce.comの企業規模であれば自力でのQ2C分野への進出も十分可能だと思いますが、あえて新興企業を競争させることで自社のクラウド環境のエコシステム拡大を図っているということなのでしょう。
ちなみにApptusは今回の調達資金の利用目的の一つとして日本支社の開設を挙げていますので、Q2Cという言葉が日本で流行り始めるのはもうすぐかも知れません。
■Apptus
http://apttus.com/
■SteelBrick
http://www.steelbrick.com/
※文中の商品名、社名等は、各社の商標または登録商標です。