

昭和13年創業の老舗和菓子専門店『亀屋万年堂』を営む株式会社亀屋万年堂は、紙のスタンプカードを廃止し、スマートCRMプラットフォーム『betrend』を基盤とした『LINEミニアプリ』によるデジタル会員証を導入しました。お客様が普段使い慣れているLINEだけで完結し、アプリのダウンロードが不要という手軽さが最大の強みです。
当初は「シニア層の多い客層でデジタル化は難しいのではないか」という懸念がありましたが、丁寧な店頭コミュニケーションを通じて、紙のスタンプカード時代に7万人だった会員数をおよそ2年7ヶ月で9万9,000人まで引き上げることに成功。本記事では、マーケティング部の斎藤氏と辻氏に、ターゲットシフトの裏側と、LINEミニアプリ×betrendがもたらした「老舗ならではの温かい接客の深化」について伺いました。

マーケティング部
販売促進企画課
課長 斎藤氏

マーケティング部
販売促進企画課
辻氏
課題
・ 顧客行動データの不足
・デジタル移行への心理的障壁
・手作業による情報登録と事務負担
導入効果
・会員データとランク機能の可視化による接客強化
・LINEミニアプリによるスムーズな移行と会員数増加
・顧客登録の完全自動化と資材コスト大幅削減
丁寧な対面接客の裏側に潜む
「顧客データの不在」と「アナログ運用」の課題
斎藤氏:以前は、40年近くにわたり紙のポイントカードを運用しており、古くからのお客様にも広く浸透していました。カード紛失時の再発行手続きなど細かな対応も、現場スタッフの丁寧な接客力でカバーされていたため、日々の店頭オペレーションに大きな支障はなく、表面的には順調に推移しているように見えていました。
しかし、どれほど丁寧な対応であっても、アナログ中心の伝統的な対面接客のみに依存するスタイルでは、お客様の行動履歴がデータとして蓄積されません。本部は、この状況が機会損失や事務作業の非効率化などを招く「隠れた課題」であると認識していました。

亀屋万年堂総本店。明るい店構えの店内が印象的で、開店直後にも関わらず、絶え間なくお客様が訪れていた。
辻氏:お客様の購買行動、すなわち「誰が・いつ・何を・どれくらいの頻度で購入しているか」が全く把握できていませんでした。POSシステムでは、商品別の売上点数は追えていましたが、肝心のお客様の実態が見えていませんでした。
そのため、お正月やひな祭り、お中元・お歳暮などの季節イベントで販促を実施する際も、すべてのお客様に同じダイレクトメール(以下、DM)を送ったり、店頭でチラシを配ったり、といった一様のアプローチしかできていませんでした。足繁く通ってくださる大切な常連様を特定できず、それぞれに最適なご案内ができていないことに、もどかしさを感じていました。
また、お客様情報を取得する際は、店頭で専用用紙に個人情報を手書きで記入していただき、それを店舗で1件ずつ手作業でパソコンに入力するというアナログな作業が発生していました。この入力業務にかかる膨大な時間と手間、さらにポイントカードの資材費やDM郵送費などのコストが、本部の運営を大きく圧迫していました。
伝統を大切にしながら、現代にマッチする
多様性とデザイン性を追求
斎藤氏: まず、商品ラインナップが大きく変わりました。従来の伝統的な和菓子中心から、新食感のチルド洋菓子やプリンなどの商品を積極的に展開するようになり、ターゲット層もこれまでのシニア層中心から、より若い世代へとシフトさせていきました。その際、私たちが最も重視したのは、「これまで培ってきた伝統を大切に守りつつ、現代に合う多様性・自由さ・洗練されたデザイン性を柔軟に取り入れる」という方向性でした。

グループ入りを機に、新しくラインナップに加わった洋菓子。『PREMIUMナボナ』やプリンアラモードなどが、一部の店舗限定で販売されている。
辻氏:若い世代のお客様が増えるにつれ、紙のポイントカードではなく、スマートフォンで手軽に使える仕組みが求められるようになっていたのは事実です。しかしながら、私たちがデジタル化へ舵を切った目的は、単に若い世代へのターゲットシフトだけを見据えたものではありませんでした。
「長きにわたってお店を愛してくださっているお客様も大切にしながら、どう次の時代へ進んでいくか」――それが、私たちにとって最大のテーマでした。
時代に合わせたデジタル化と「お客様の実像の可視化」
斎藤氏: まず、「今後、亀屋万年堂が持続的に成長し続けるためには、時代に合わせて店舗をデジタル化することが不可欠である」という危機感があったからです。
また「お客様の実像を見える化したい」という強い希望もありました。お客様が今、何を求め、何を買いたいと思っておられるのか。それをデータとして正確に理解・可視化することで、お客様により寄り添った最適な商品提案と販売を実現したいという想いが、LINEミニアプリ導入への確かな決断につながりました。

現在使用中のスマレジにbetrendをリアルタイム連携させることで、顧客データベースを効率的に構築でき、即LINEミニアプリの会員証運用が可能に。
辻氏: はい。自社独自のアプリを開発する案もありましたが、「アプリストアで検索し、ダウンロードして登録する」という一連のステップは、特にシニア層のお客様にとって、高いハードルになると考えました。
今後、持続的な成長を実現するためには、時代に即したデジタル化が欠かせません。しかしその一方で、お客様を誰一人取り残すことなく、より深く心のこもったおもてなしを提供したいという想いがあります。
この両立を可能にしたのが、ダウンロード不要ですぐに利用できるLINEミニアプリと、新たに導入したクラウドPOS『スマレジ』をリアルタイム連携させることで、顧客データベースを効率的に構築できるbetrendの組み合わせでした。
データで紡ぐ、新たな老舗のおもてなし
斎藤氏:導入前は、社内においても「このままではお客様が離れてしまうのではないか」という懸念が広く見られました。開始当初は実際に、お客様から「やっぱり紙のカードのままが良かった」という反対や戸惑いの声が寄せられることもありました。
しかしそこで諦めることなく、「昨今デジタル化が急速に進む中で、私たち亀屋万年堂も時代に合わせてしっかりと変化していかなければならない」という信念を、店頭で一人ひとりのお客様に対し、丁寧に、繰り返しご説明していきました。そうしたお客様との真摯な対話を重ねたことで、温かいご理解をいただき、想定を上回るスムーズさでLINEミニアプリへの移行を完了することができました。

配送伝票記入台に設置されたLINEミニアプリを訴求するチラシ。お得な会員ランクのアピールで入会を促す工夫が施されている。
辻氏:LINEミニアプリの「新しくアプリをダウンロードしなくていい」という圧倒的な手軽さにあると思います。正式なアプリでありながら、ワンタップで利用できる気軽さが、若い世代のお客様はもちろん、シニア層のお客様にも直感的に受け入れられました。
また、登録時にお客様がつまずかないよう、事前の準備も徹底しました。登録操作中に想定される、あらゆるトラブルケースを想定した店舗用マニュアルを作成し、全店舗に事前配布しました。このため、レジで困っているお客様がいても、全てのスタッフが慌てることなくスマートに対応できる体制が整えられました。
さらに、単に「登録してください」とお声がけするだけでなく、会員登録で得られる特典やメリットを、具体的かつ丁寧にお客様にお伝えすることを、全店で標準化しました。
店舗マニュアルの徹底と、メリットの丁寧な説明、そして何より、現場での真摯な対話。これらすべての工夫が合わさることで、お客様の混乱を最小限に抑え、新しい仕組みを安心して楽しんでいただけるようになりました。結果的に、紙のポイントカード時代に約7万人だった会員数は、先日、9万9,000人を突破しました。洋菓子ファンのご新規様から和菓子好きの常連様まで幅広く、しっかりとした接点を持つことができました。
「会員ランク機能」によって可視化された、
店舗ごとの特色とステップアップ施策
斎藤氏:購入金額に応じて「レギュラー」「ブロンズ」「シルバー」「ゴールド」の4段階で変動する会員ランク機能を導入したことで、これまで見えなかったお客様の「常連度(ロイヤルティ)」がリアルタイムに可視化されるようになりました。
数字を見ている実感として、やはりランクが付くことでお客様のリピート率が明らかに向上していると感じています。特に、毎月15日に開催しているポイントUPデー『お菓子の日』を楽しみに、ご来店くださる常連のお客様が大幅に増加しました。
さらに興味深い変化として、データを通じて店舗ごとの特色も鮮明に見えるようになりました。例えば、「郊外の店舗はゴールド会員様の比率が特に高い」「駅前の店舗は新規のレギュラー会員様が多い」など、店舗特性が一目で把握できるようになり、各エリアの特徴に即したきめ細やかな施策を打てるようになったのです。
辻氏:現在は、会員ランクに応じて配信するクーポンの内容を変えたり、プッシュ通知の文面や提案商品を変更したりするなど、ターゲティング型プロモーション施策を実施しています。
また、これまでは新規会員様の獲得に注力していましたが、ランクが可視化されたことで、「レギュラー会員様をいかにブロンズ会員様へと引き上げていくか」といったステップアップ施策をどう設計していくか、社内での明確な判断指標ができたことも、betrend導入による大きな収穫の一つです。
ーー店頭では、このデータはどのように活用されていますか?
辻氏:お会計時にレジでお客様のLINEミニアプリをスキャンすると、現在の会員ランクがスタッフ側のモニターに表示されます。また、お誕生日などの特別なステータスについては、配信されたクーポンを通じてスタッフが把握できる仕組みになっています。
そのため、常連のお客様には「いつも本当にありがとうございます。今週からちょうど新しい大福の販売が始まりました。」と感謝を込めてお声がけしたり、お誕生日月のお客様には直接「お誕生日おめでとうございます!」とお祝いの言葉をおかけすることが可能になりました。
「デジタルツールを導入すると接客が冷たくなってしまうのではないか」という懸念もありましたが、実際は全く逆でした。お客様の常連度や大切な記念日がデータで可視化されるからこそ、現場のスタッフがより自信を持って、老舗らしい温かみのあるおもてなしを実践できています。
看板商品『ナボナ』の新作や季節限定和菓子をフックにした
「攻めのリピート施策」
辻氏:これまでは一律のDM配信しか行えませんでしたが、現在は会計時に蓄積された購買データをもとに、タイムリーかつ効率的なアプローチが可能になりました。例えば、看板商品『ナボナ』の新作チルドタイプや季節限定の大福など、和菓子を発売する際には、過去に同系統の商品をご購入いただいたお客様を抽出し、ピンポイントでプロモーションメッセージをお届けできます。これにより、配信コストを最適化しながら、再来店の確率を高める効果的な施策を実現しています。
斎藤氏:以前はレジを通る商品の合計金額しか見えませんでしたが、LINEミニアプリとbetrend、そしてスマレジが連携したことで、ようやく「お客様の顔」が見えるようになりました。お客様一人ひとりの購買履歴や好みを正しく理解できるからこそ、店頭でお越しいただいた際に、より温かく的確な接客を行うことができます。この仕組みは、老舗のおもてなしを次のステージへと引き上げてくれると確信しています。

店舗とECの壁を取り払い、
あらゆる接点でシームレスな顧客体験へ
斎藤氏:今回、LINEミニアプリを入口に、betrendを基盤にしたことで、実店舗における顧客データの取得と効率化のベースが整ったと強く実感しています。
そして私たちが現在、次なる大きなテーマとして見据えているのが、「実店舗とEC(オンラインショップ)の会員データ統合」です。現在は、実店舗での購買データと、ギフト需要を中心にご利用いただくECのお客様データが分断されたままになっています。これを一本化し、顧客体験をシームレスに繋げることこそが、次の重要なマイルストーンだと考えています。
ーー会員データが完全に統合されることで、お客様にはどのようなメリットが生まれるのでしょうか?
辻氏:店舗でもECでも同じようにポイントが貯まり、どちらのチャネルをご利用いただいても、お客様一人ひとりの好みに合わせたパーソナライズされたおもてなしをお届けできるようになります。店舗とオンラインの壁を一切感じることなく、快適にショッピングをお楽しみいただける「シームレスな顧客体験」を提供したいと考えています。
長い歴史の中で培ってきた「おもてなしの心」を大切に守りながら、LINEミニアプリとbetrendの機能を最大限に活かし、次の世代にもさらに愛される亀屋万年堂へと進化を続けてまいります。



