(4)スマートCRMで優良顧客を見つける方法
それでは、“優良顧客”はどのように見つけていけば良いのでしょうか?
これについては、スマートCRMだからといって特に従来のCRMでの“優良顧客”の考え方と違いはないと思いますので、オーソドックスな解説をしたいと思います。
1.デシル分析
これは、前述した“パレートの法則”や“ニッパチの法則”のような顧客・売上の構成比率になっているかを調べるにも適しています。
“デシル”は、ラテン語で“10等分”という意味で、まずは、顧客全体の人数を購入金額が多い人の順番にデシル1からデシル10まで10等分して(顧客100人であれば、10人ずつ分ける)、その各々のデシル内の合計金額を、多い順に上から並べてみます。
そうすると、デシル1とデシル2の合計金額で、全体の80%を占めている、などということがわかります。
デシル分析により、上位20%のお客様で80%の売上が上がっていることがわかれば、例えばメールに比べてコストが高いDMはがきを“優良顧客”向けに出したいときには、このデシル1とデシル2のランクに分類された顧客に、DMはがきを郵送すればよいという施策が考えられます。
デシル分析で顧客分析を行う時には、何年も前の購買データからの累積値を持ってくると、古いお客様がデシルランクで上位になりがちなので、業種や商品にあった分析期間を考えておく必要があります。一般的には年間(事業年度)毎の統計をとることが多いようです。
前年対比や年度別の顧客推移など、顧客の変化(トレンド)を見ていくことも大変重要です。この場合は、“デシル移動分析”という手法を使います。
上位顧客から下位顧客にデシルランクが移動してしまった顧客は?なぜ、ランクダウンしたのか?ランクアップした顧客は?なぜランクアップできたのだろう?
などを考えて、次の施策を打っていくための基礎資料の数字となります。
2.RFM分析
“RFM分析”というとなんだか難しそうな分析手法のように思われるかもしれませんが、その言葉の意味を考えるとさほど難しいものではなく、“優良顧客”を見つけ出すのに適した手法であることがわかります。
お客様の“購買履歴データ”や“来店履歴データ”をもとにして分析をする方法です。
■ Fは、Frequency(フリークエンシー:購入回数)「どのくらいの購入頻度なのか」
■ Mは、Monetary(マネタリー:購入金額)「いくら購入しているのか」
では、このRFMの観点で見た時に優良顧客とはどんな顧客でしょうか?
やはり、“最近、何回も、たくさん”買っている人が良いお客様ということになります。
次に、RFMにもその量によって、それぞれにランクを付けると“どれくらい”良いお客様なのかが見えてきます。
そこで、R,F,Mそれぞれに3段階から5段階で評価ランクを付けます。
F=1,F=12,F=3,F=4,F=5
M=1,M=2,M=3,M=4,M=5
という具合です。
このように数字でランクをつけると、“セグメンテーション”(顧客を分類すること)ができ、優良顧客を見つけたり、離反顧客に戻ってきていただいたり、新規顧客をリピート顧客に引き上げたりという施策を考えていくのに便利です。
以下の図のように、例えば直近で多く来店して、たくさん購入しているお客様を“優良顧客”と定義します。
そして、CRM戦略は、他の各セグメントのお客様をいかにこの“優良顧客”のセグメントに入れていくか!?ということになります。
このセグメントは必ずRFMの3軸で行わなくてはならないということもありません。業種業態によっては、RFやFMの2軸だけでも優良顧客の判断ができます。
例えば、定番メニュー中心のお店や、たまたま高額な商品を買った人を偏重しないようにしたい場合などは、RとFだけの2軸で判断した方が、傾向がよくわかるケースもあるからです。
また、美容室・エステサロンや化粧品などの、定期購入サービスや商品の場合は、来店・購買の頻度(サイクル)は決まっているので、RとMで判断してはどうでしょうか。
利用金額もある程度決まっているとすると、R(直近に来店・購買してからどのくらいの時間が経過したか)がとても重要になりますね。
RFMをそれぞれ、5段階に分けた場合、全部で5×5×5の125通りのセグメントに分かれます。それぞれのセグメント向けに125種類の施策を考えて情報配信をしようとするのも現実的ではないので、一般的には“顧客ランク”という考え方で、更にグルーピングします。5段階の顧客ランクに再度集約すると、各顧客ランクに応じた施策は5通りでよくなります。
次にランクの分け方が重要になりますが、分析ソフトでは、ヒストグラムやクラスター分析などの手法をサポートしているものがあります。
ヒストグラム(度数分布表)は、数値の分布状態(ばらつき)を、棒グラフで表します。
例えば、ある一定期間の購買頻度(F)を見る場合は、以下の図のようなイメージとなります。
ある一定期間の平均購入回数を調べる際に、注意点があります。
例えば、凄いヘビーユーザが短期間に大量に購入した際には、すべてのデータを足して件数で割り算する“平均値”では、通常より明らかに値が大きくなり、分析結果に影響を与えてしまうことがあります。
このような偶然発生した大きなデータの影響を最小限に抑えるには、すべてのデータを順番に並べた時の一番中央の値、つまり“中央値”を参考にするという方法もあります。
顧客ランクを決めていく際に、デシル分析のところでご紹介したパレートの法則を活用する方法もあります。
例えばヒストグラムにより、あらかじめ5段階のランク付けをして、優良顧客とすべき最上位層と2番目の層で全体の20%になるくらいに顧客ランク付けを行います。
R,F,Mそれぞれにこの方法でランク付けを行えば、RFM全体での顧客ランクができあがるというわけです。
3.ライフタイムバリュー(LTV)と顧客離反率分析
CRMの究極的な目的は、お客様に末永く商品やサービスを繰り返しご利用いただき、ご愛顧いただくことにあります。業界用語でいうと、いわゆる“ライフタイムバリュー(生涯価値)を最大化する”ということになります。
ライフタイムを長くするということを、逆から考えると、顧客の離反をいかに抑えていくかということになります。
ある飲食店に頻繁に来てくれていたお客様が、いつの間にかパッタリと顔を出さなくなったり、ある化粧品を、毎月のように買ってくれていたお客様が、ある時から全く買わなくなってしまうということは、よくある話です。このあたりも数値として分析、把握しておかなければ、最適なCRM施策を打ちようがありません。
この数値把握には、“顧客離反率分析”という方法があります。
一般的に、年度単位で数値の推移を見ている会社が多いと思いますが、前年度の全購入顧客のうち、今年度一度も購入してくれなかった顧客を、今年度一度も購入してくれなかった顧客を“離反顧客”として数値化します。
前年度購入した1,000人の顧客の中で、300人が今年度購入してくれなかったとしたら、顧客離反率は30%です。
この場合の平均顧客寿命を考えてみましょう。
という計算式に当てはめると、平均顧客寿命は約3.3年ということになります。
もし、平均客単価(M)が5,000円で、購入回数(F)が年間平均6回のお店だとすると、このお店の一顧客当たりのライフタイムバリューは、
の計算式にあてはめると、
LTVは5,000円x6回x3.33年=9.99万円(約10万円)となります。
とうことは、このお店は年間で、約3千万円分の顧客離反が起きていることになります。
(正確には、3千万円から過去に離反顧客が支払った総額を差し引きしなくてはなりませんが…)
再度、裏返して考えると、このお店では、顧客離反率を1%改善するだけで、約百万円の売上が生まれる(又は、失われない)ということになります。
このように、CRMでは、顧客ランクの低い層の顧客ランクを、いかに引き上げていくかという施策だけに焦点があたりがちですが、いかに顧客離反を防止していくかという施策も非常に重要なものとなります。
では、どうすれば移り気な消費者からの顧客離反を防げるのでしょうか?
ここで、“顧客満足度”という考え方が登場してきますが、これについては、少し後の講座で解説していきます。