(6)スマートCRMとは
2.スマートデバイスの活用 (後編)
c.動画コンテンツ
スマートフォンで便利になった機能のひとつに、“動画閲覧”があります。通信費用の定額制が当たり前となり、安くなる一方なので、昔に比べてパケット代を気にせず、気軽に動画を見ることが出来るようになりました。
最新の統計の“スマートフォン・フィーチャーフォン・タブレットの利用率”では、スマートフォンの利用率が、全体で52.8%となっており、昨年と比較すると約20%も急増しています。ネットで動画を閲覧している人も52.8%と過半数を超えている一方で、平日のテレビの視聴時間が昨年から1年間で16.4%も急減しています。こういったデータから、いかに消費者がスマホで動画を見始めているかが推察されます。
・出典:平成26年4月総務省情報通信政策研究所(外部リンク)
また、2013年1月から2014年12月までの“PCからYoutubeへの訪問者数の推移”をみると、20代以下は930万人から15.2%減の789万人、30代は708万人から24.4%減の536万人で、この2年間で減少しています。
反対に60代以上だけは、488万人から5.5%増の515万人と微増の傾向です。(出典:シード・プランニング)
統計データでみても、全体的にスマートフォンへのシフトが進んでいますね。スマートデバイスは、画面サイズが比較的大きく、解像度も高い機種が多いため、単純に動画が見やすいということも視聴者が多くなっている要因だと思います。
以前は、広告予算が少ない企業が、Youtubeなどの無料動画投稿サイトに投稿して、それをFacebookなどでURLをお友達とシェアしてもらうことで、「少しでも宣伝に役立てよう」というアプローチでしたが、最近では、広告代理店にとっても“ナショナルクライアント”と呼ばれる広告宣伝予算が大きな企業が、最初からテレビコマーシャルではなく、Youtubeで世界中の人からの大量アクセスを狙って広告を制作するケースが増えてきました。
テレビ番組の広告枠を多額の費用を払って買うのではなく、その予算を“コンテンツ制作”にほとんど投入し、映画製作並の工数がかかった上質な動画を、無料の動画投稿サイトで流行らせるという新手法です。
市場調査会社のシード・プランニングの調査では、国内のネット動画広告市場は2017年には2013年に比べて5倍弱の640億円に達すると予測しています。動画広告分野はますます大きな市場になりそうです。
この“コンテンツマーケティング”は、CRMでも活用されはじめています。Youtubeの“限定公開機能”は、特定のURLからしかアクセスできない設定となっていて、会員登録した人だけが見られる動画コンテンツを、“メルマガのプレミアム特典として配信”というような演出もできます。しかも、それがコンテンツ制作以外には別段システム費用をかけずに実現できるようになりました。
アパレルのお店では、ファッション情報を動画で伝えると、写真や文字だけでは伝えにくいモデルさんなどの“人の体の動き”がわかるので、より購買意欲をそそられますね。
また、化粧品や家電製品などでは、使用方法を説明するのにも、動画で説明ができると短時間で分かりやすく利用者の理解が進み、「使ってみたい」という気持ちになります。
日本トイザらスでは、Youtube公式チャンネルを2013年春に開設し、現在では500本を超える動画を配信しています。
「育児の片手間にスマートフォンで膨大な説明書きを読むのは厳しいが、動画ならば商品写真だけでは分かりにくい使い方や設置方法なども伝えることができる。(日経デジタルマーケティング)」
・日本トイザらス Youtube公式チャンネル(外部リンク)
さらに、旅行商品の紹介も、車窓からの風景・お洒落な街並み・激しく流れ落ちる滝・打ち寄せる波・風にたなびく花・揺れる木々の葉など、動画コンテンツとしてビジュアル化された説明だと、やはり「旅行に行ってみたい」という感情が高ぶります。
このように、動画コンテンツは、“人の感情を揺さぶる”エモーショナルな効果があるタイプのコンテンツだと言えます。
人の感情が揺さぶられる際に、どのようなメリットがあるかというと、それは“実体験として記憶に残る”ということです。
“動画は記事コンテンツの2倍記憶に残る”という記事を見つけました。
人は何か文字を記憶しても、20分後にはその42%を、1時間後には56%を忘れてしまうそうです。
一方で、映像と音声を掛け合わせた動画は、文字で構成される記事型のコンテンツよりも“2倍”、人の記憶の中に留まり続けることが分かっています。
・出典:movieTIMES (外部リンク)
「動画は「記事コンテンツの2倍」記憶に残る――忘れられない企画の「3つの要素」」
お客様とのコミュニケーションを続けていくのがCRMの基本ですが、いつも同じテキスト情報や同じような写真、同じようなクーポン券ばかりではなく、時々は、人の感情に訴え“記憶に残る”動画をコンテンツとしてお客様に配信するのも目先が変わって面白いのではないでしょうか?
動画には、その他にも面白い特長があります。それは、視聴者の意思で任意に“コンテンツの進行を止める”や、“コンテンツを繰り返す”ができるということです。
なにやら、難しい表現になってしまいましたが、例えば、“テレビ講座”や“ラジオ講座”では、疑問点や分からないことがあったときでも、どんどん授業が進行されて、決められた放送終了時間めがけてコンテンツが進行してしまいます。これが、動画を使ったeラーニングの場合には、進行が早すぎると思ったらそこで一旦コンテンツの進行を止めて、わからないところをgoogleで検索して調べてみるとか、じっくり考えてみるとか、自分の好きなように“主体的な視聴”ができます。
従来の“放送コンテンツ”と“動画コンテンツ”には、主体が放送局側にあるのか、視聴者側にあるかという根本的な違いがあります。よって受動的な態度で視聴されるのが“放送コンテンツ”、能動的な態度で視聴されるのが“動画コンテンツ”と分類することができます。このようにインターネットやスマートフォンは、社会のあらゆる分野で“パラダイムシフト”を起こしているのです。
米国では、“動画CRM”が既に実践されているそうです。進行する動画の中で表示する文字や数字、画像などのデータを、“可変”にできるソフトウエアが生まれています。
この革新的な技術を“顧客情報データベース”と接続すれば、お客様ひとりひとりの属性や行動履歴、購買履歴を参照しながら、“お客様ひとりひとりに異なった見せ方の動画”を配信することが可能になります。
記憶に残る“動画のパーソナライゼーション”ができるようになるというわけです。やはり米国はかなり進んでますね。
このような技術を応用して、国内でも先進的な事例がでてきました。
ダイワハウス工業が2015年のゴールデンウィークにメルマガ会員へ、このパーソナライズされた動画メールを配信しました。モデルハウスの表札にメール会員の苗字がはめこまれた映像になっているというものです。動画の再生率は8割を超え、展示場のWEBサイトヘの誘導率は2倍、住宅展示場ページへのゴールデンウィーク中のアクセス数は3割増加したそうです。やはり、動画コンテンツはすごい反応ですね。
これからは、メールマーケティングの効果を上げる為に、このパーソナル動画をセットにしてメール配信するというのは流行るかもしれません。
・日経デジタルマーケティング(外部リンク)
d.決済
ITの世界が分針秒歩で進化しているように、金融の世界でもどんどん新しい取り組みが行われています。
近年、消費者の生活時間や様式の多様化とテクノロジーの進化が絡まり、金融業界も競争激化すると同時にものすごい勢いで進化し始めました。
Eコマースの分野では、クレジットカード決済が成長しています。国内の消費者も、ECサイトでクレジットカードを使うことへの抵抗感が以前ほどはなくなってきているようです。
ただし、クレジット決済を行う際は、カード番号や氏名などの個人情報をいちいち入力しなくてはならず、それが面倒でクレジット決済を使わない人もいます。
Amazon.co.jpが急成長している理由のひとつとして、クレジットカード情報を予め登録しておけば、毎回入力する必要なく“ワンクリックで買える”ということがあると思います。アマゾンジャパンはこの便利な機能を、自社サイト(独自ドメインサイト)で通販を運営している他の事業者にも貸し出すという『Amazonログイン&ペイメント』を、2015年5月11日より開始しました。
これは、Amazon.co.jpで顧客が登録した氏名や商品配送先住所・クレジットカード番号などの情報を、Amazon.co.jp以外のサイトで利用し、決済できるようにするサービスということです。
実際に先行して導入が進んでいる米国では、これを導入したサイトの注文成約率が向上しているそうです。アマゾン経済圏はますます拡大しそうですね。
・Amazon Payments(外部リンク)
・東洋経済ONLINE 日本上陸!超便利な「アマゾン決済」の衝撃度(外部リンク)
国内の通信キャリアも負けてはいません。ソフトバンクが新しく通販の代金を合算して支払えるというサービスを2015年10月から開始すると発表しました。
傘下のYahoo!ショッピングとソフトバンクブランドのスマートフォンのIDを連携させ、登録すれば自動ログインも可能にするなど利便性を高めるそうです。
ところで、レストランや小売店でクレジットカードを使うタイミングは“後払い”ですが、ECでは決済完了後に商品を配送するという意味では、“前払い”となります。
レストランなどでは、支払い場所は実在の店鋪でがあり、お店の人の顔も見え、POSレジでクレジットカードが処理されている様子も見えているので、安心してカードが使えますが、ネットショップの場合は、まだまだクレジットカードを使うことを躊躇する消費者も少なからずいると思います。
そこで、新しい決済方法が生まれました。“後払い決済”というサービスです。
ジャックスの調査統計によると22.1%の人が後払いを希望し、後払いを選択した人の中で80.2%の人が「商品を確かめてから支払いたい」としています。
・ジャックス ATODENE(外部リンク)
でも、もし商品を受け取ったのにその人がお金を払わなかったら、その商品代金の回収はどうすれば良いのか?と今度は事業者側が心配になりますよね。
ところが、そのようなケースでも後払いの金融サービスを行っている会社が商品代金を事業者側にちゃんと払ってくれるのです。
たぶん、外国では信じられないようなサービスですが、今の日本の金融機関の与信調査技術やリスク管理技術は、恐るべきレベルで高度になっているからこそ、このようなサービスが成り立っているのだと感心してしまいます。
参考:
・GMOペイメントサービス株式会社(外部リンク)
・ジャックス・ペイメント・ソリューション株式会社(外部リンク)
2013年に日本に上陸してきた、スマートフォンやタブレット等のスマートデバイスをPOSレジに変えてしまう可能性を持った『Square(スクエア)』は衝撃的でしたね。
これまで、クレジットカードの加盟店になるには、ある程度の事業規模をもち、金融機関の審査に通って、なおかつ、加盟店手数料を支払える会社でなければなりませんでしたが、スクエアはこの敷居をどんと下げてくれました。
スマートフォンさえあれば、無料の小型リーダーとレジアプリを入手するだけで、中小、零細、個店でも簡単に加盟できるようになり、あっという間にクレジットカード払いが日本中に広がってきました。
ところで、お客様との関係性を維持して行くCRMの“囲い込み”という観点で、このように発展して来た金融技術が活用できないものでしょうか。
外食チェーン店などで最近急速に人気を呼んで成長しているのが、“プリペイドカード”です。
あらかじめお金をチャージしてもらうことで、“囲い込み”という観点から企業側のメリットもありますが、毎回現金を出す必要が無くなり、利便性が向上しました。お店に寄ってまとめてチャージすることで、ボーナスチャージが付与されるというお客様側のメリットもあります。
一般的には、お店のブランドやキャラクターがデザインされたプラスチックの磁気カードを使用しますが、今では、スマートフォンアプリ上で同様の機能を再現した“アプリ会員証”も普及し始めています。
スマートフォンユーザは、“アプリ会員証”をダウンロードしておくだけで、プラスチックの磁気カードをお財布に入れて持ち歩く必要がなくなるというわけです。
既にプリペイドカードを導入している飲食店では、“カード会員の平均的な来店回数は非会員に比べて約1.5倍に向上し、客単価も約10%は向上した(バリューデザイン社)”そうです。
あらかじめ“前払い”でカードにお金をチャージしているので、残高が残っている限りは他の店に行くよりは、「残高のあるお店に行こう」ということで来店回数が上がり、ビジュアル的にも現金が見えないので、客単価が微妙に上がるという、人間心理をついた上手いサービスだと感心します。
誕生月にクーポン券代わりに少しボーナスチャージを付与して、メールやアプリ会員証へのプッシュ通知でお知らせすると、さらに来店効果が高まります。
このプリペイドカードを“ポイントカード”として応用し、実績を上げている成功例をご紹介します。
高級なお肉が安く食べられるということで大人気の『いきなり!ステーキ』です。
・いきなりステーキ(外部リンク)
肉を食べれば食べるほどマイレージがたまり、最初は白いカード、3,000g達成でゴールドカード、20,000gも食べるとプラチナカードがもらえて、プラチナカードには、毎回お好きな飲み物が無料となり、お誕生月にはなんと400gのお肉がプレゼントされるというVIP特典が用意されていて、盛りあがっています。
CRMとゲーミフィケーションを組み合わせたロイヤルティ・プログラムとして大変面白いですね。
『PayPalアプリ』や『GMO Pallet』など、スマートフォンのアプリ会員証とクレジットカードを連携して、お店でクレジットカードを出さずに決済できるサービスも登場しています。
お店でアプリ会員証からチェックインすると、店員側のアプリに名前や顔写真が表示され店員が金額を入力します。
その後、アプリ会員証側で暗証番号を入力するだけで、決済が完了するという仕組みです。
このようなサービスが普及すれば、支払いの手軽さに加えて、スキミング被害の減少にも貢献できそうです。
参考:
・PayPalアプリ(外部リンク)
米国では、iPhone6と同時に発表されて話題になっている『Apple Pay』というアップル社主導のスマホ用決済方法があります。
近距離無線通信の国際規格であるNFCを採用した決済方法で、これと同じような『事前決済・事後決済』の両方の使い方が一般化すると言われています。
さらに、このことをCRMの観点から考えてみましょう。
“予約を入れて来店する”というのは一般的ですが、“予約を入れて来店しない”お客さんが発生すると、お店は大打撃です。
せっかく部屋やテーブルを空けて待っていたのにドタキャンされると、他のお客様も急には入ってくれないし、仕入れた食材は無駄になり、来店していないお客さんにその費用を請求することもできないしで大打撃となるわけです。
“事前に支払って予約を入れる”場合は、どうでしょうか?来店しないと今度はお客さんが損をすることになります。
ですので、“確実に来店する”施策となります。そこでその確実性の代償として、“若干”割引きをすると、SNSでシェアされやすく、さらに“販売促進”の効果も引き出せる可能性があります。
何年か前に大流行した“大幅値引き”の集客型の事前決済クーポンサービスは、リピート顧客にはなってもらえず、一過性の顧客で終わってしまうケースがありましたが、CRMのロイヤルティ顧客向けのサービスの一環として、この“事前決済”の仕組みを活用すると非常に効果的ではないかと思います。
実際に、スマートフォンやタブレット対応の予約サービスを提供する各社も、すでに“事前決済予約”の機能を準備しているようです。
一方、クレジットカード業界で、これから流行しそうなCRMサービスとしては、“CLO(Card Linked Offer)”があります。
これは、クレジットカードの決済利用履歴から、カード会員をターゲティングして、クーポンなどの特典を配布することで、カード加盟店への送客をお手伝いするというサービスです。
カード会員が“いついくら何を買ったのか”がわかるため、その会員の興味・趣味嗜好に合わせた加盟店のクーポン券が配布できて、利用者(会員)も、これまでのO2Oのようにスマートフォンのクーポン画面を店員さんにいちいち見せなくても、カードで決済をするだけで、後ほどクーポン分の金額割引きが自動的にされるという大変“スマート”なサービスです。
野村総合研究所の実証実験によると、“CLO会員”のカード利用件数の前年対比は150%、金額比は130%だったそうです。
・NRI 野村総合研究所「CLO(Card Linked Offer)実証実験の結果と展望」(外部リンク)
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