(3)顧客価値を増大化させるには
“顧客価値”について、これまでいろいろと述べてきましたが、顧客価値を現実的な経済価値に転換するためには、“来店回数の向上” “購買金額の向上”にヒットする具体的な施策が必要です。
そのための施策が『ロイヤルティ・プログラム』であり、プログラムで顧客価値を増大させる工夫をしようというものです。
良い『ロイヤルティ・プログラム』は、顧客との良い関係性のもとに成り立っているはずです。そして、そもそも“良い関係”とは、過去の“良い体験(=ユーザーエクスペリエンス)”の礎の上に成立しているはずです。“良い体験(=ユーザーエクスペリエンス)”とは、例えば飲食店であれば、“Q:Quality(=味)” “S:Service(=サービス)” “C:Cleanliness(=店内空間の清潔さ)”における素晴らしさということになります。
過去から現在まで提供してきた“ユーザーエクスペリエンス”により、“将来も期待できる”と思ってもらえるように運用するのが、良い『ロイヤルティ・プログラム』ですね。少し難しい言い回しをすると、“ひとりひとりの顧客からの将来の売上を潜在的に蓄積していくプログラム”ということになります。
そういう意味では、株式会社ペッパーフードサービスが運営する、いきなり!ステーキの『肉マイレージ』プログラムは優れていると思います。そもそもお肉の原価率が7~8割ということですから、“美味しさ”は間違いありません。その基本部分があってこその話ですが、実に面白い『ロイヤルティ・プログラム』を構築しています。
この『ロイヤルティ・プログラム』では、意外なことに、ポイント(マイル)をいくらためても、他のポイントサービスを導入しているお店のように都度都度の値引きやポイント還元はありません。基本的には、自分が食べたお肉の量(グラム)を『肉マイレージ』として毎回蓄積していくだけです。ただし、累計3キログラムになるとゴールドカードとなり黒ウーロン茶をはじめ、好きなソフトドリンクがもらえます。また、お誕生月には300グラムのお肉がプレゼントされます。さらに、累計20キログラムともなるとプラチナカードとなり、お飲物もソフトドリンクだけでなく、アルコール類も選択できるようになります。
シンプルにそれだけのことなのですが、自分が食べた“記録が残る”というだけで、いつの間にか累計3キログラムや20キログラムのハードルを越えようと思い始めている自分に気が付きます。もし、お店に5~6回行って累計2キログラムくらいになったとしたら、「よしっ、3キログラム(ゴールドカード獲得)まで頑張ろう」という気持ちになるはずです。累計3キログラム食べたとしても、ランキング上位争いに加われるわけでもないですが、何か自己実現や目標達成をするようなイメージです。
いきなり!ステーキのアプリは、『肉マイレージランキング』での上位争いが、ゲーミフィケーションのようになっており、この部分だけが注目されがちです。しかし実は、“履歴蓄積”という地味な部分の方がロイヤルティ育成に貢献しているのでは、と筆者は感じています。会員証アプリの“利用履歴を確認”のところをタップすると、自分の過去の利用店舗や食べたグラム数が一覧できます。利用した日付を見ているだけで、その時一緒に立ち食いした同志や一人で食べていた時の気持ちなどが思い浮かばれます。“記録が残る=記憶が残る”という意味で、ロイヤルティ・プログラム的に興味深いところです。
ランキング上位者ともなると、1日だけで4~5キログラムも食べるとんでもない人たちがいます。ゲーム業界に例えると“ヘビーユーザー”でアイテムを買いまくってゲーム会社の収益を支えているような方々です。ボディービルダーや、ダイエットのために赤身肉メインの食事をしているような人たち(1日3食ともステーキという人もいるそうです)も多いようです。このようなとんでもないヘビーユーザーの方々は、随分とお肉にお金を費やしていることが考えられますが、そのような方々に重宝されているのが“プリペイド機能”です。
当初、いきなり!ステーキの『肉マイレージカード』はいわゆるポイント蓄積機能だけでしたが、途中から『肉マネー』というプリペイド機能が追加されました。肉の日(29日)などに実施される『3倍チャージキャンペーン』や『5倍チャージキャンペーン』といった、常連さんが少しでもお得に食べることができるようなプログラムも用意されています。この日は、プリペイドチャージの金額が跳ね上がり、莫大なキャッシュフローが生み出されていると想定されます。
まさに“将来の売上をカードにチャージしている”恰好ですね。
筆者もよくランチ時に会社近くのお店に行きますが、先日、カウンターに立つとゴールドカードをまだ提示していないのに、“いきなり”黒ウーロン茶が出てきて、隣の初心者風の人が羨ましそうにしており、なんだか優越感を味わいました。もう少しで10キログラム突破なので、店員さんが顔を覚えてくれたのだと思いますが、まさに“ロイヤル顧客”になったような気がしました。
『ロイヤルティ・プログラム』は、このように“システム”ではない部分でも“顧客と良い関係性を創る効果”もあるのだなと感心しました。