(5)顧客分析とコンタクトチャネル〜コミュケーションツールの活用
顧客のRFMの履歴情報が蓄積されてくると、そのセグメント化された情報を活かして、今度は販売促進などの目的に合わせた分析の最適化を図っていく必要があります。
・全く新しいお客様(新規顧客)
・お店に来てくれなくなったお客様(離反顧客)
・VIP顧客(優良顧客)
など、様々なタイプの顧客をRFM分析によりセグメントしていきます。
セグメントができたら、次に優良顧客になっていただくことを目指したロイヤルティ向上の施策を考えていきます。
より上位の顧客ランクへのランクアップ施策を考えて実行する際には、“顧客とのコミュニケーション”の中でその施策をどのように情報として伝えていくかが大事になってきます。
“顧客とコミュニケーションをとる”とは、具体的にはどのようにすれば良いのでしょうか?
上手なコミュニケーションは、“最適な人に、最適なタイミングで、最適な情報(特典)をお伝えすること”に他ならないのは、よく言われていることですね。
“いつ” “誰に” “何を” “どのように”お知らせするかを決める際には、顧客の履歴データだけではなく“属性データ”が活躍します。
“誰に”は、RFM分析で顧客ランクを決めた対象顧客層に対して、となります。ただ、“何を”に相当するプレゼントや特典を“どのように”伝えるかは、属性データを見ると考えやすくなります。高齢者・中高年層・若年層・男女などによって、普段使っているコミュケーションツールが違うからです。
“どのように”は属性データから、“いつ” “誰に” “何を”は購買履歴データやRFM分析をした結果から考えていくといいと思います。
繰り返しになりますが、年齢・性別・居住地・職業・年収などにより、それぞれの属性に有効な“接点=コンタクトチャネル”は違ってきます。
もっとも適切なコンタクトチャネルで、RFM分析の結果に基づいたコミュケーションをとることが大切です。
具体的なコンタクトチャネルを列挙するといろいろあります。
・はがきなどの郵便物によるDM(ダイレクトメール)
・WEBによる対応(WEBサイト/マイページなど)
・SNSによる対応(Facebookページ、Twitterアカウントなど)
・メールによる対応(メルマガやお問い合わせメール)
・スマートフォンアプリによる対応(会員証アプリなど)
・LINEなどのメッセージング・アプリ
・営業担当者/販売担当者
・店舖スタッフ
これらを最適な組み合わせで使い分けていく必要があります。
わかりやすい使い分けを、大手百貨店の例で説明していきます。
百貨店の店舗では、販売担当者の接客により商品を販売しています。
そこでは、店鋪での販売担当者の接客の巧拙が売上に直結しています。
またRFM分析の結果、上位ランクである富裕層の顧客や、属性で“年収”のデシル分析により振り分けた“VIP=優良顧客”向けには外商の営業担当者がつき、外商部門の売上は全体の約4割を占めています。これらの優良顧客層には、美しいパンフレットが封入された郵便物によるDM(ダイレクトメール)が定期的に届きます。この場合、コンタクトチャネルは、労力やコストのかかる人的な対応やアナログな郵送物ですが、それに見合う売上は十分期待できるのです。
しかし、コミュニケーション手段自体はアナログとはいえ、実はバックヤードの情報システムは、巨大なデータセンターのデータウェアハウスで膨大な購買履歴データを分析するソフトウェアが動いているのです。
百貨店がよく発行している“会員カード”とコミュニケーションツールの接点としては、5年程前に日経新聞に掲載された大丸松坂屋百貨店の面白い事例があります。
・大丸、携帯メールで140億円増収:日本経済新聞(外部リンク)
大丸松坂屋百貨店では『Dカード』というポイントカードを発行しており、ポイントは一般的な百貨店と同様に購買金額に応じて貯めるだけでなく、店舗に設置してあるKIOSK端末で“来店ポイント”も加算することができ、ポイントの貯めやすさが評価され、人気があります。
RFMの観点で見ると、これは、ポイントにより、カード会員のF(Frequency)を向上させる施策といえます。
この事例で面白いのは、それがコミュニケーションツールとリアルタイムに連動しているところです。
『Dカード』を店頭のKIOSK端末に読み取らせると、その後数十分以内には自動的にスマートフォンや携帯電話へ、館内で行われている催し物の案内やお得なセール情報が掲載されたメールが届くようになっています。
それにより、実際に店頭から館内の上層階まで、顧客を誘導し、館内を回遊させ、M(Monetary)の向上を図っています。
カード会員向けには、ポイント残高のお知らせや、最新情報がメールで届くようになっている一方で、カード会員でなくても登録できる一般向けのメルマガも用意し、顧客ランクが低い層までサポートしています。
また、若年層や女性向けには、LINEでの友達登録も促進しています。
このように、RFMの顧客ランクが低い層にまで幅広く情報を届けていくという目的では、メールやSNSなどによる関係性の構築・維持は大変効果的ですね。
・大丸・松坂屋のLINE公式アカウント(外部リンク)
また店舗スタッフがコンタクトチャネルとして活躍している最新事例としては、PARCOが取り組んでいる『カエルパルコ』というサービスが話題になっています。
・カエルパルコ(外部リンク)
『カエルパルコ』は“オムニチャネル”の新しい形として注目されています。店舗スタッフが商品紹介記事を書き、商品も店舗から発送(もちろん店舗受け取りもできます。)、売上も店舗に上がるという仕組みです。実際にこの通販での売上が店舗売上全体の10%くらいを占める時もあるそうです。
(6)顧客満足度調査の基本と新しい手法
前項で説明した“顧客離反率”を抑える手法として、一般的に行われているのが顧客満足度調査です。新商品・新メニューの開発や、店舗の改善を行う場合には、“調査=リサーチ”がよく行われています。顧客離反に焦点を当てる場合には、“不満足度調査”を行う場合もあります。
調査には、自社のポイント会員や第三者である調査会社などに依頼して行う“クローズドアンケート”と、広告や自社サイトからアンケートに誘導して行う“オープンアンケート”があります。
その他、お客様に扮装した調査会社の調査員が、依頼のあった店舗にお客様として来店し事前に用意された項目について調査し、報告書を作成する“覆面調査(ミステリーショッパー)”などもあります。
CRMの観点では、“どのお客様がいつどのような回答をしたか”がわかるようなアンケート調査が継続的に実施できれば、前項で説明してきたRFMの行動・購買履歴データのみでなく、“お客様の気持ち”といったエモーショナルなデータまで統合的に把握することができます。
過去の行動に基づいた分析はもちろん大切ですが、“現在の気持ち” “将来の行動予測”に基づいた分析もCRM施策を実施していく上で重要な指針になります。
1.顧客満足度調査の手法
焼き鳥チェーン店の備長扇屋や、日本橋 紅とん等を展開し、顧客満足度の高い企業であるヴィアホールディングスでは、『MOVIA』というポイント会員制度を運営しています。
・『MOVIA』(外部リンク)
美味しい焼き鳥を食べて、飲んで、お会計の際にPOSレジから出て来るレシートには、アンケート用のQRコードが付いています。
MOVIA会員がこれを読み込んでWEBサイトにアクセスすると、QRコードに埋め込まれている支払い金額に応じたポイントが貯まり、アンケートに答えると、追加のポイントが貯まります。
また、アンケートに答えてくれた人にはお礼のメールと一緒に、次回10%引きになるクーポン券が届く、というようなアンケート中心のロイヤルティプログラムになっています。
MOVIA会員のアンケート回答内容・スコアの継続的な推移や、店舗毎の顧客満足度の各項目の月次推移を分析することで、“顧客の気持ち”の推移が観測できるようになっています。
2.「E(エモーション)」の数値把握
“顧客の気持ち=エモーション”を数値化して、PDCAを回していくことは、“ファン創り”にとって極めて大切なプロセスではないでしょうか?
顧客のロイヤルティ向上施策の目的はそのお店なり、ブランドの“ファン創り”であると言っても良いと思います。
では、“顧客満足度調査=CS調査”はどのように進めればよいでしょうか?
CRMの観点で調査を行う場合は、単発の調査ではなく、同一調査項目を定期的かつ、継続的に調査する方が目的と合致しているように思います。
KPI(キー・パフォーマンス・インジケータ)という考え方があります。このKPIは目的とするゴール(例えば店舗売上高の目標)を達成するための先行指標として、設定する指標項目のことを言います。
例えば、飲食店であれば、お会計後もしくは来店後にメールで
というような、いたって簡単なアンケート調査をしたとします。継続的に測定して、その当月数値の推移と、翌月の店舗の売上高の推移を相関グラフで見てみると、何らか関係性のある動き(例えばきれいに比例している)があれば、そのアンケートのスコアは、先行指標となり得ます。
KPIの候補となる設問は以下のようなものがありますが、例えば全てを5段階評価するとしたときに、それらの合計点(総合点)をKPIとすることもできます。
調査にあたっての目的となり得る仮説を決めると、次はその仮説を検証して調査結果として導きだすためのプロセスである“実査”に入ります。
実査をするためには、まずは調査票を設計しなければなりません。「またご来店いただけますか?」というような1問の設問であれば、特に調査票設計というような大げさなプロセスは必要ありませんが、通常は、“CS要因=顧客満足度を左右している要因”を複数個推定してそれぞれを設問にします。
売上との相関を求めたりするケースでは、設問は数値化(定量化)できるものの方が相関分析がしやすくなります。
飲食店の場合、たとえば、以下の5つくらいのKPIが代表的な例となります。
□お料理が出てくるまでの時間
□接客態度
□お店の清潔度
□お店の雰囲気
継続的に測定した結果、これらの中で明らかに“接客態度”が店舗売上と相関しているようであれば、そのお店の“CSF=クリティカル・サクセス・ファクター(重要成功要因)”は、接客態度であったということがわかり、施策としてはそこを重点的に改善するようにします。
では、改善する際に「どのように改善すればよいのか」などをお客様から引き出す手法はないでしょうか?
その場合は、複数人に意見を語ってもらうグループインタビューや、1対1で行うデプスインタビューなどの定性調査が向いているのではないかと思います。
3.分析集計方法について
定量調査の分析方法にはくつかの方法があります。
GT集計(単純集計)
単純集計は、設問毎にそれぞれの選択肢に何人が回答したのかを集計し、その比率を見ます。表、円グラフ、棒グラフなどで表すことができます。
クロス集計
設問項目を掛け合わせて集計する方法を、クロス集計と言います。例えばある設問が、男性・女性、居住地、年齢などの属性ごとにどのような回答数になっているか、また、ある設問の回答をした人が別の設問ではどのように回答をしているかなどを一覧することができます。
相関分析
2つのデータ間の直接的な関係性を見るには相関分析を使います。例えば、店舗売上高と店舗CS総合点の月次推移を見たりするのは相関分析を用います。
-1~1の数値を使った分析となります。値が0に近いほど関係性が薄く、-1または1に近いほど関係性が高いことを表します。
例えば飲食店で“店舗売上げとお料理の満足度の関係”の場合、お料理の満足度が高いほど店舗売上高も多くなっている場合は“正の相関関係”があります。
ラーメン屋さんなどで気温が高い程、 売上げが下がっている場合は、“負の相関関係”があると言えます。
インタビューなどの定性調査では、ある単語や回答内容等の出現頻度を把握して傾向分析をする“データマイニング”や、異なる性質が混じり合っている集団の中から、お互いに似たものを集めて集落(クラスター)を作り、対象を分類しようとする“クラスター分析”などが用いられます。
するとクロス集計ではわからなかったような意外なセグメント分けが存在することが発見されることがあります。