郷土の味で繋ぐ絆:ワールド・ワンのオムニチャネル戦略
郷土コミュニティをアプリで広げる

1996年創業の株式会社ワールド・ワンは、『土佐清水ワールド』をはじめ、郷土料理をテーマとした店舗を神戸・東京・大阪を中心に30店舗を構える。「郷土と、ともに。」をビジョンに掲げ、顧客・生産者・従業員の”三方よし”を実現する幅広い事業を展開している企業だ。
ビートレンド スマートフォンアプリの採用を決定し、2020年の”コロナ禍”にアプリをリリース。多様な制約の中で、いかにデジタルシフトを推進し、アプリを会員サービスに活用してきたのか。取締役・営業本部長 鄭氏と企画開発部 田内氏に詳しいお話を伺った。
郷土料理に軸足を置いた多角的ビジネス
ドミナント戦略により、飽和市場の中でもユニークな立場を確立
ワールド・ワンが運営する飲食店では、本場さながらの郷土料理が、非常に新鮮な状態かつリーズナブルな価格で提供されていることに驚かされる。その代表格的な店舗『土佐清水ワールド』では、土佐清水名物のカツオの藁焼きが、店内の厨房でダイナミックな炎をあげて調理され、まるで土佐の港町にいるような錯覚さえ覚える。このようなサービスが提供できる背景には、独自の物流センターを持ち、そこから食材を自社便で各店舗に送り届ける社独自のドミナント戦略がある。中間コストや時間のロスを排除することで、郷土の新鮮な食材を安価で提供できるというわけだ。
ワールド・ワンが運営する飲食店では、本場さながらの郷土料理が、非常に新鮮な状態かつリーズナブルな価格で提供されていることに驚かされる。その代表格的な店舗『土佐清水ワールド』では、土佐清水名物のカツオの藁焼きが、店内の厨房でダイナミックな炎をあげて調理され、まるで土佐の港町にいるような錯覚さえ覚える。このようなサービスが提供できる背景には、独自の物流センターを持ち、そこから食材を自社便で各店舗に送り届ける社独自のドミナント戦略がある。中間コストや時間のロスを排除することで、郷土の新鮮な食材を安価で提供できるというわけだ。
土佐清水の味をそのまま再現
代表の河野氏は、かつてプロレスラー時代の地方巡業中、各地で出会った食材や料理の素晴らしさに深く魅了される一方で、生産者たちはその価値に見合った待遇を受けていないと感じたという。その課題感から生まれたアイディアを形にしてゆく中で、関わった異業種出身メンバーを次々と巻き込み、拡大していった、というこの会社の成り立ちこそが、そのビジョンの一つである「縁」によるものだ。元銀行員や元商工会議所職員など異業種畑出身のメンバーが「郷土を熱く」という共通の志の元に集まり、それぞれの強みを発揮することで、事業の拡大と多角化に成功している。
代表の河野氏は、かつてプロレスラー時代の地方巡業中、各地で出会った食材や料理の素晴らしさに深く魅了される一方で、生産者たちはその価値に見合った待遇を受けていないと感じたという。その課題感から生まれたアイディアを形にしてゆく中で、関わった異業種出身メンバーを次々と巻き込み、拡大していった、というこの会社の成り立ちこそが、そのビジョンの一つである「縁」によるものだ。元銀行員や元商工会議所職員など異業種畑出身のメンバーが「郷土を熱く」という共通の志の元に集まり、それぞれの強みを発揮することで、事業の拡大と多角化に成功している。
コロナ禍の逆境をむしろ好機と捉え、会員サービスのデジタルシフトを推進
ビートレンドのサービス導入を決定したのは2019年半ば。当時、鄭氏は、店舗は”人が集まるプラットホーム”と捉えると、そこを起点に雑誌やECなど他業態への
送客が可能な「アンテナ」として機能するはず、という確信を持ちつつも、顧客情報管理などのインフラが整えられていないという課題を感じていたという。
それまでのロイヤリティマーケティング手段といえば、プラスチックのポイントカードとDMが中心だったが、ポイントカードは「10名様のグループの中に3人の会員がいても、会計に紐づけられるのが一人分だけ」という仕様が悩ましく、DMは月々のコストが課題となっていた。
社内的にも「時代はアプリである」という機運が高まっており、いよいよデジタル化を決定、そのパートナーとしてビートレンドを選定いただいた。
取締役・営業本部長 鄭氏
取締役・営業本部長 鄭氏
ビートレンドのサービス導入を決定したのは2019年半ば。当時、鄭氏は、店舗は”人が集まるプラットホーム”と捉えると、そこを起点に雑誌やECなど他業態への送客が可能な「アンテナ」として機能するはず、という確信を持ちつつも、顧客情報管理などのインフラが整えられていないという課題を感じていたという。
それまでのロイヤリティマーケティング手段といえば、プラスチックのポイントカードとDMが中心だったが、ポイントカードは「10名様のグループの中に3人の会員がいても、会計に紐づけられるのが一人分だけ」という仕様が悩ましく、DMは月々のコストが課題となっていた。
社内的にも「時代はアプリである」という機運が高まっており、いよいよデジタル化を決定、そのパートナーとしてビートレンドを選定いただいた。
押す挙動も楽しい電子スタンプ
「まず電子スタンプの挙動がリアルスタンプにそっくりなのがすごく面白くて。また1グループに複数の会員さんがいる場合の課題も解決できる仕様でした。」(鄭氏)
積年の課題が解消される機能に加え、選定の大きな決め手となったのは、他社に比べて「手頃な価格」と「独自のデータベースが持てる自由度の高さ」だったという。後々導入することになるスマレジ・ebicaとの連携など、拡張性の大きさもメリットだった、と鄭氏は振り返る。
しかし、アプリの開発が進行する中、世界的な新型コロナウイルスの感染が拡大。2020年春には緊急事態宣言により営業時間や内容が制限されるなど、飲食業界にとっても非常に大きな打撃となったことは記憶に新しい。プロジェクトの延期や休止は検討されなかったのだろうか。
押す挙動も楽しい電子スタンプ
「まず電子スタンプの挙動がリアルスタンプにそっくりなのがすごく面白くて。また1グループに複数の会員さんがいる場合の課題も解決できる仕様でした。」(鄭氏)
積年の課題が解消される機能に加え、選定の大きな決め手となったのは、他社に比べて「手頃な価格」と「独自のデータベースが持てる自由度の高さ」だったという。後々導入することになるスマレジ・ebicaとの連携など、拡張性の大きさもメリットだった、と鄭氏は振り返る。
しかし、アプリの開発が進行する中、世界的な新型コロナウイルスの感染が拡大。2020年春には緊急事態宣言により営業時間や内容が制限されるなど、飲食業界にとっても非常に大きな打撃となったことは記憶に新しい。プロジェクトの延期や休止は検討されなかったのだろうか。
「当社はあまりネガティブには捉えていなくて、むしろ、こういう時だからこそアプリが必要だよね、という考え方でした。DMに関しても、新しい形(アプリ)の模索がなければ、やめる決断はできなかったと思うんです。むしろコロナ禍がデジタルシフトのきっかけになったようなものです。」(鄭氏)
ポイントシステムのデジタル化により会員数は3倍に
取得データで顧客像を可視化、ロイヤルカスタマーの醸成に活用
ワールド・ワンのアプリは2020年11月16日にリリース、ポイントカードや来店スタンプなどの基本的なサービスから、POSレジ連携や予約システム連携によるポイント還元、スクラッチなどのゲーミフィケーションまで、幅広い接客ツールとして活用されている。プラスチックカードの時代に比べて、はるかに多種多様な顧客サービスを提供できる環境が整った。
アプリ導入後、最初に行ったことは、会員数を伸ばすことに主眼を置いた、大々的なアプリインストールキャンペーンだった。「アプリをインストールしたら500ポイント進呈」と、インパクトのある内容だ。結果、アプリ会員数は約3倍に、累計15万人を超えた。
また、アプリ導入によりユーザー動向のデータが取得できるようになり、次の打ち手を模索するための分析材料として活用できるようになった。特に来店履歴は、購買金額では判らない顧客のロイヤリティを可視化できる重要なファクターとして需要が高まっており、ポイントやクーポンなどによる顧客還元の新たな基準として利用されているという。
アプリトップ画面
ポイントカード画面
アプリの利用が進むにつれ、シンプルなポイントカード機能に予約ポイント機能や会員ランク機能が追加され、徐々にバージョンアップ。ポイント獲得の機会を増やせたことで、ヘビーユーザーを掘り起こすことができたという。特に会員ランク制度の導入はインパクトが大きく、来店回数や消費額に応じて特典を提供、顧客ロイヤリティの強化に繋がった。
またワールド・ワン社が展開する全ての業態でポイントシステムが導入されているため、1業態だけのリピーターから、業態横断での利用促進に寄与している。業態ごとの商品単価の違いによるサービス作りの難しさはありつつも、オリジナルグッズなどでカバーできているため、”ワールド・ワンのお店”全体のファンの醸成にもつながっている印象だ。
ポイント機能を使った「ファーストスタンプ」で販促スキルを可視化
成功事例の横展開で店舗間のスキルギャップを解消
企画開発部 田内氏
アプリの機能拡充で多様なアプローチが可能になったが、新ツール導入には運用面の課題がある。大規模キャンペーンも顧客認知がなければ意味がない。会員数は店舗数と必ずしも比例せず、各店舗の販促リテラシーが成績に影響する。ワールド・ワンでは、効果的な店舗横断施策のため、どのような教育や工夫を行っているのか。
「店舗の接客スキル可視化のため『ファーストスタンプ』施策を実施しました。最初のスタンプを押した店舗に紐づけて、付与ポイント数を月次ランキング化しました。」(鄭氏)
『ファーストスタンプ』の得点は、顧客対応の積極性を示す指標となり、店舗間で顕著な差が見られた。「そこで、プッシュ通知を使った集客に成功している店舗の配信内容を『雛形』として社内SNSで共有しました。アプリプッシュの即効性を実感したスタッフが、次第に自主的に文言や写真まで工夫するようになり、各店舗の販促スキルが<爆上がり>しました。」(田内氏)
各店舗に集客ノウハウを浸透させた後も、「モチベーションを維持してもらうため、日々、社内SNSでランキングを投稿しています。年2回の賞金付きキャンペーンでメリハリをつけながら、ランキングに変化があった店舗への声掛けも行って士気を高めています。」(田内氏)
アンケート機能を店舗評価に活用しながら、リピーター層拡大のための応用方法を模索
来店翌日にアプリで配信されるアンケートは、利用店舗のQSC(Quality, Service, Cleanliness)の指標として活用されている。週に1度、全店舗をA〜Eランクで評価・発表し、D、E評価となった店舗には改善アクションを求めるという。
このように既存顧客の意見を反映した評価システムが機能する一方で、アプリ会員からのみ意見を収集している点で、来店者全体の意見として捉えるには限界があるのも事実だ。
実際、業態の異なる『あら、りんご。』などの場合、回答者層が著しく偏るため、別のアンケートフォームを用意し、QRコードから誘導している。業態横断のアンケートシステム特有の運用上の課題も浮き彫りになっており、鄭氏は「こういった部分のチューニングが可能になると、様々な展開が期待できる」と述べている。
取得したデータは多角的に分析
取得したデータは多角的に分析
来店翌日にアプリで配信されるアンケートは、利用店舗のQSC(Quality, Service, Cleanliness)の指標として活用されている。週に1度、全店舗をA〜Eランクで評価・発表し、D、E評価となった店舗には改善アクションを求めるという。
このように既存顧客の意見を反映した評価システムが機能する一方で、アプリ会員からのみ意見を収集している点で、来店者全体の意見として捉えるには限界があるのも事実だ。
実際、業態の異なる『あら、りんご。』などの場合、回答者層が著しく偏るため、別のアンケートフォームを用意し、QRコードから誘導している。業態横断のアンケートシステム特有の運用上の課題も浮き彫りになっており、鄭氏は「こういった部分のチューニングが可能になると、様々な展開が期待できる」と述べている。
日々のデータ分析が
アクションに繋がっている
「売上の中心は依然として、アプリ導入前からのヘビーユーザーですが、その層の積み増しが思うようにできていないのが現状です。早期再来店を促す施策も試していますが、蛇口をひねって水を溜めているのに、同じくらい抜けているような感覚があります」と鄭氏は語る。
ファンの高齢化も徐々に進む中、コア層に新規層を取り込み、拡大させることは急務だ。そのためには、非会員のインサイトを探ったり、覆面調査を実施するなど、新たな視点からの取り組みも必要になるだろう。
現状、非会員向けのアンケートはフリーウェアなどで準備可能だが、それをマーケティングに活用するには情報の紐付けが課題となる。フリーウェアではこの紐付けが困難だ。
様々なデータ連携を得意とするビートレンドが、現在、CX(顧客体験)領域の強化に取り組んでいる背景を踏まえ、企画面での協力にも期待を寄せているというコメントをいただいた。
日々のデータ分析が
アクションに繋がっている
「売上の中心は依然として、アプリ導入前からのヘビーユーザーですが、その層の積み増しが思うようにできていないのが現状です。早期再来店を促す施策も試していますが、蛇口をひねって水を溜めているのに、同じくらい抜けているような感覚があります」と鄭氏は語る。
ファンの高齢化も徐々に進む中、コア層に新規層を取り込み、拡大させることは急務だ。そのためには、非会員のインサイトを探ったり、覆面調査を実施するなど、新たな視点からの取り組みも必要になるだろう。
現状、非会員向けのアンケートはフリーウェアなどで準備可能だが、それをマーケティングに活用するには情報の紐付けが課題となる。フリーウェアではこの紐付けが困難だ。
様々なデータ連携を得意とするビートレンドが、現在、CX(顧客体験)領域の強化に取り組んでいる背景を踏まえ、企画面での協力にも期待を寄せているというコメントをいただいた。
顧客コミュニケーションは次のステージへ
顧客の囲い込みには一定の結果を出したものの、それだけではアプリの目的を果たしたことにはならない、と鄭氏は言う。
単なる(会員数・売上などの)”数”を指標とするのではなく、どのくらい会社の魅力や郷土の魅力の発信につなげられているか、という部分に重きを置いたとき、顧客とのファーストコミュニケーションはどのような形であるべきかを模索しているという。
その中で、今後はアプリを「単なる接客ツールではなく、郷土コミュニティを広げ、顧客と地域の課題解決につなげる取り組みを実現するツール」とし、企画面での活用を強化したい考えだ。
「コミュニティに参加して人の輪を広げることも、当社の大事な使命なので、来店回数や利用金額だけでは測れない、”郷土文化への関与度”を測る新しい指標として”KDA(※郷土を熱くの略)”というものの導入を検討しています。」(鄭氏)
田内氏デザインの公式キャラ『ワールドにゃん』はKDAのアンバサダー
田内氏デザインの公式キャラ『ワールドにゃん』はKDAのアンバサダー
顧客の囲い込みには一定の結果を出したものの、それだけではアプリの目的を果たしたことにはならない、と鄭氏は言う。
単なる(会員数・売上などの)”数”を指標とするのではなく、どのくらい会社の魅力や郷土の魅力の発信につなげられているか、という部分に重きを置いたとき、顧客とのファーストコミュニケーションはどのような形であるべきかを模索しているという。
その中で、今後はアプリを「単なる接客ツールではなく、郷土コミュニティを広げ、顧客と地域の課題解決につなげる取り組みを実現するツール」とし、企画面での活用を強化したい考えだ。
「コミュニティに参加して人の輪を広げることも、当社の大事な使命なので、来店回数や利用金額だけでは測れない、”郷土文化への関与度”を測る新しい指標として”KDA(※郷土を熱くの略)”というものの導入を検討しています。」(鄭氏)
KDAの運用には、新たなポイントプログラムを設計し、郷土コミュニティ関連のイベント参加やコメント投稿などのアクションに紐づく独自レートのポイント付与を検討しているといい、アプリがコミュニティ形成の一翼を担うという、斬新な活用事例といえる。
コストパフォーマンスに頼ることなくサービスレベルを維持し、チャレンジャーでありながら、運用は堅実。郷土への想いと使命感は一貫してサービスにも反映され、共感を生み、次々とファンを増やし、コミュニティを拡大させているワールド・ワンの発展に、今後も目が離せない。
株式会社ワールド・ワン
1996年創業。日本全国各地の郷土の食文化を通じて、郷土と地域をつなぎ、ニッポンの風景を熱くする郷土活性化企業です。
「土佐清水ワールド」「青森ねぶたワールド」「あら、りんご。」「.donut」など全国各地の本当に価値ある食材・郷土料理を提供する飲食店を、神戸・大阪・東京・青森に30店舗以上展開。
飲食事業以外にも、EC事業、クラフトビール製造事業、スイーツ事業など”食“を通じて、郷土の魅力を発信しています。
URL : https://www.world-one-group.co.jp
*文中の商品名、社名等は、各社の商標または登録商標です。
*記事の内容は、2024年10月取材時のものです。